お仕事見学
電子図書館で図書館をもっと身近に!メディアドゥをウパっちが直撃!
第8回 株式会社メディアドゥ
ウパっちはとある企業図書館に住むウーパールーパー。
いつものように書架でのんびりしていると、図書室のおじさんが机の上に置いていったタブレットが目にとまりました。
覗いてみると、そこには電子書籍の画面が表示されていました。
本じゃないのに本みたい・・・
気になったウパっちはその電子書籍を提供しているメディアドゥという会社に行ってみることにしました。
ウパっちが到着したのは地下鉄竹橋駅から直結したビル。
株式会社メディアドゥ[※1](以下、メディアドゥ)のオフィスがある5階に上がり、会社に入ると一面ガラス張りの窓の外には緑がいっぱいの皇居のお濠が目に飛び込んできた。
最初に、オフィスの中を見学させてもらった。
オフィス内も皇居側が一面ガラス張りで、とても明るい。総務や人事などの管理部門を除き、個人の机はフリーアドレスになっている。
席を隔てるパーティションなどはなく、とても開放的な印象だ。
リラックススペースにはカフェのようなテーブルやダイニングテーブル、靴を脱いで上がれるスペースやバーカウンターもあり、ちょっとした社内パーティーなども行えるようになっている。
受付を入ってすぐのフリースペースも印象的な丸い形で居心地が良く、たくさんのアイデアが浮かんできそう。
メディアドゥってどんな会社?
今回、案内をしてくれたのは電子図書館推進部の田中敏生さん。
会議室に移動してお話を伺っていると、途中から、田中さんと同じ電子図書館推進部課長の川手満喜男さん、シニアマネジャーの瀬尾昌也さんも加わってくれた。
(写真左から)電子図書館推進部の瀬尾昌也さん、田中敏生さん、川手満喜男さん
メディアドゥは、もともと名古屋で1999年に創業し、携帯の販売などから始まり、その後携帯電話向けの着メロや待ちうたなどの音楽配信サービスを手掛けてきた。
「2006年からは電子書籍配信サービスを始めました。デジタル音楽配信等の経験があったのでそのノウハウが電子書籍でも生かせるんじゃないかということで。ちょうどiPadの発売とかもあって、そのころから電子書籍関連はすごく伸びていくんですね。そして、2014年には米国OverDrive社[※2]と業務提携して、電子図書館事業を始めました」
現在、メディアドゥでは電子書籍関連の事業が全体の9割ほどを占めていて、国内でコンテンツの流通を促進するための国内事業、海外に日本のコンテンツを広める海外事業、そうしたコンテンツを利用し、また広める役割を担う電子図書館事業、これらを3本の柱として展開している。
「メディアドゥでは”ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人へ届けること。”というミッションの下、電子書籍、電子図書館事業を進めています」
電子図書館ってどういうもの?
電子図書館は、紙の本をあつかう図書館と同じ利用体験を、電子書籍によって実現する。利用者はPCやスマートフォンから本を検索、閲覧し、貸出中でなければ借りることもできる。
アメリカでは約95%の図書館がすでに電子書籍サービスを導入しているが、日本ではまだ5%以下でしかない[※3]。
その日本でメディアドゥが展開するのは、北米の公共図書館の90%以上が導入しているというOverDrive社の電子図書館システムだ。
電子図書館システムの画面を見せてもらうウパっち
電子図書館が導入されると利用者にはどんな利点があるのだろう。
「図書館に行かなくても、読みたい本が自宅のPCやスマートフォンなどからすぐに読むことができます。忙しいビジネスパーソンの方や、子育て中の方、遠方でなかなか図書館に行けないような人でも、図書館を利用できるようになります」
選択肢が増えることで、いろいろな立場や状況の人たちが、等しく読書の機会が得られるというわけだ。
「他にも、電子図書館というか電子書籍だから可能なこともあって、例えば、洋書だとナレーション付きの電子書籍があったりします。画面上のテキストを読み上げるのではなく最初からナレーションが付いているので、読み上げよりもスムーズですし、該当するテキストをハイライトで表示してくれたりもします」
こうした洋書の書籍は、多読とか英語教育にもこれから役立てていけるのではないかと期待しているとのこと。
ナレーションだと発音やアクセントの問題がないので、日本語の書籍でもニーズは多いかもしれない。
電子図書館推進部ってどんなことしてるの?
電子図書館推進部ではどのような仕事をしているのか、日常業務を教えてもらった。
「日々、図書館を訪問して、電子図書館のサービスのご提案や打合せなどを行なっています」
電子図書館だから、インターネット経由で体験してもらうとか、訪問をしなくても営業活動を進めることもできそうだが...
「それはないですね。やはり直接お会いしてお話をしたいというはあります。新しい事業だからというのもありますが、電話であってもなかなか伝えきれないので、まずは行かないと始まらないと思っています」
導入後には、図書館と協力してイベントを開催したりもしている。
「イベントというのは、導入後の利用促進ですね。導入しただけだとその時点では知らない利用者も結構いるので、利用体験を目的としたイベントを図書館さんとお話して企画、開催しています」
そうしたイベントなどの活動報告も含め、Facebookでも積極的に情報発信を行なっているそうだ。
香川県まんのう町立図書館での電子図書館体験会の様子
電子図書館サービスを開始する時点では、コンテンツ数は1000冊くらいでスタートすることが多いらしい。
「最初に導入するコンテンツを選ぶお手伝いもしています。どのようなコンテンツが欲しいか、要望や予算を伺ってこちらでリストを用意します。ただ、私たちはあくまで選ぶお手伝いしかできませんので、予算のだいたい倍くらいのリストを用意して、最終的には、その中から図書館さんに選んでもらいます」
導入後も、定期的にコンテンツを増やしていくのが一般的で、導入時の担当者がその図書館での運用状況などを分析してフォローをしているそうだ。
「導入後も運用状況とかは気にかけるようにしています。定期的に運用状況を確認して、例えば、トップページの一覧に表示させるコンテンツの変更案を提案したりもします。ずっと同じままだと利用者が見てくれなくなるので、惹きつけるという意味では重要で、利用率にも結構影響があったりしますから」
「電子図書館だから、ITだから、という特別な魔法なんてなくて、導入に至るまでも導入してからも、当たり前のことを着実にやっていくようにしています」
苦労していること
電子図書館は便利だし、あればいいなと思っている図書館も多いはず。しかし、日本でまだまだ普及していないのはなぜだろう。
「例えば、図書館さんとやり取りをする中でよく質問されるのは、日本語のコンテンツがどのくらいあるのか、ということですね」
確かに、どれだけシステムが便利でも、コンテンツがそろっているかどうかは重要だ。
「システムの問題であれば修正するとか新たに開発するとかで解決できますが、コンテンツは権利関係があるので簡単にはいかないところもあるのは確かです」
「出版社だけでなく著者とか複数の権利が絡みますし、電子書籍として販売の許諾がとれても図書館での利用は認められないこともあったりします。しかし、最近は電子書籍についての理解も進んできていますし、年々、コンテンツの量も増えてきていて、状況はかなり改善してきています」
「洋書と比べると、和書は確かにまだ多くはありませんが、今年の3月から『株式会社出版デジタル機構』[※5]が、メディアドゥグループに加わったんですね。それで、図書館向けにもこれまで以上に多くの日本語コンテンツを提供していける見込みも立ってきました」
また、電子図書館の導入は、比較的規模の大きな事業であるがゆえの苦労もあるそうだ。
「ご提案をしてどんなに気に入っていただいても、あらかじめその年の予算として計画されていないとやはり難しいですからね。公共図書館の場合、その年だけでなく、2年、3年とかの計画の中に電子図書館が入っていないと無理という話は多いです。そうこうしているうちに担当者が変わって最初からやり直しというケースもあります」
しかし、徐々に導入事例が増えることによって、導入を検討している図書館側のハードルも下がってきているとのこと。
「おかげさまで導入事例が年々増えてきているのでお話はしやすくなってきましたね。やはり、実際に稼働している電子図書館のページを見ていただくのが、どんな説明よりも分かりやすくて、使い勝手や導入後のイメージも伝わりやすいので」
電子図書館によって図書館はもっと身近になる
「地方創生事業で未来への投資をかかげて導入していただいた例もあります。例えば雪深いところとか、地方だと図書館の利便性の問題もあるので、電子図書館を導入する意義がわかりやすいんですね」
実際の図書館と電子図書館は競合するものではなく、図書館を利用できない、なにかしらの障壁があるとしたら、電子図書館がそれを取り除くためのひとつの解決策となりそうだ。
「アメリカの事例なんですが、電子図書館で本を借りて、あとでその本を買うという人が一定数いるそうです。それは、作品を知るきっかけというか、読書体験を得ることにつながっていると思うんですね。たとえ買わなかったとしても、電子図書館によって読書がより身近になって、皆に親しんでもらえるようになればいいですね」
「今は、すごく面白い作品でも、紙の本をわざわざ買ったりしないという人も増えていると思うんですね。そういう人に届けばいいなと。まずは、読書を身近にすることが必要で、そして、図書館をもっと生活の中で身近なものにするために、電子図書館がその助けとなるんじゃないかと思っています」
一緒に図書館業界を盛り上げていきたい
ところで、田中さんは昔から図書館が大好きだったとのこと。
「本当にいい場所だと思うんですよ、図書館って。理由がないと行かない場所みたいになっている人もいますけど、実際に図書館に行ってみて期待外れだったという人っていないと思うんですよね。いろいろな本があって楽しいし、イベントとか展示とかもあったりして。でもそれを知らない人もたくさんいます。図書館と利用者のコミュニケーションが、もっと活発になったらいいなと思いますし、電子図書館がそのきっかけになれたら嬉しいですね」
最後に、今後の展望について伺った。
「我々は図書館運営のプロではありませんし、電子図書館を入れたからといって、図書館が抱えている課題がすべて解決できるわけではありません。手助けができるだけなんです。でも、それによって、今より図書館のサービスが向上する、利用しやすい図書館にすることができる。図書館さんとお話するときには、よくそういうお話をさせていただいています」
最近は図書館側の変化を感じることも多いそうだ。
「自分たちで自分たちの町にあった図書館の運営を考えているところが増えてきている気がします。言い方を変えると、それぞれの図書館さんが、自分たちの目指すべき図書館の姿を実現していこうとしている」
「私たちも単なるシステムベンダーという位置づけじゃなくて、図書館の価値を高めていけるように一緒に何かできたらと思いますし、図書館業界を盛り上げていきたいですね」
図書室に戻ってウパっちは考えた。
ウパっちは図書室に住んでいるからいつでも読書ができる恵まれた環境なんだな。
外の図書館で絵本とかの楽しい本が読みたくても、暑かったり寒かったりすると今日はいいやって思っちゃう。これからは電子図書館が使えるようおじさんにタブレットを買ってもらおうと。
会社情報
- 株式会社メディアドゥ
- 株式会社メディアドゥ
http://www.mediado.jp/mediado/
OverDrive JapanのWebサイト
OverDrive Japan -電子図書館サービス- オーバードライブ・ジャパン
- [※1]
- 株式会社メディアドゥ
- 2017年9月からは社名を「株式会社メディアドゥホールディングス」として持株会社体制に移行、会社分割で設立された「株式会社メディアドゥ」が事業を継承する
- [※2]
- OverDrive, Inc.
- https://www.overdrive.com/
- [※3]
- 参考
- 「OverDrive Japan 電子図書館案内資料」[PDF]に記載の情報による(2017年10月時点)
- [※4]
- 株式会社出版デジタル機構
- http://www.pubridge.jp/