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専門図書館見学記

国際鯨類施設図書室

掲載:2024年4月16日
図書館名
国際鯨類施設図書室(指定管理者 一般財団法人日本鯨類研究所)
住所
〒649-5171 和歌山県東牟婁郡太地町太地1770-1
URL
https://www.icrwhale.org/tosyositu.html
電話番号
0735-29-2281(代表)

日本鯨類研究所って?

クジラやイルカなどの水生哺乳類(鯨類)を研究している学術研究団体をご存じですか?

日本鯨類研究所は日本の学術研究団体のひとつで、鯨類や捕鯨に関する研究を行っています。正式名称は指定鯨類科学調査法人 一般財団法人 日本鯨類研究所。指定鯨類科学調査法人という他では見られない法人形態ですが、鯨類の資源管理・調査を国から指定された法人のことを指します。

日本鯨類研究所は1941年に前身となる民間研究機関 中部科学研究所から始まりました。組織の移行・改組を経て、1982年の国際捕鯨委員会(IWC)による商業捕鯨の一時停止をきっかけに、鯨類の資源調査を目的とした一般財団法人日本鯨類研究所が1987年に設立されました。

日本鯨類研究所は鯨類の数を減らすことなく利用するため、保全・資源管理・生態調査を行っていますが、資源管理や生態調査だけでなく、鯨肉に触れる機会が減っている現代において、料理・文化・地域などクジラと人間の関わりを広げていくという役割も担っています。一般の人への理解促進を行う広報活動の一環で鯨類の専門図書室を設置しています。

日本鯨類研究所図書室は関連捕鯨会社の社長の私設図書室として始まり、1954年頃から財団法人鯨類研究所の「鯨研図書室」として一般にも広く公開されていました。その後、日本鯨類研究所が発足しますが、組織の縮小があり、図書室の一般公開は終了しました。一般公開終了後も研究者向けの図書室として所内外のレファレンス受付は続けていたそうです。長く一般公開されていなかった図書室が日本鯨類研究所の太地事務所開設をきっかけに再度専門図書室として一般公開されることになりました。

本州最南端の専門図書館?!
和歌山県東牟婁郡ひがしむろぐん太地町たいじちょうへの移転

日本鯨類研究所は東京都中央区勝どきにありますが、2024年4月に研究施設が和歌山県東牟婁郡太地町に移転しました。太地町は本州の南端、紀伊半島の東側で、狭い湾が複雑に入り込んだリアス式海岸が美しい自然豊かな港町です。大阪から電車で4時間、南紀白浜空港から1.5時間のところにあります。

太地町は古式捕鯨発祥の町としてクジラ・イルカに古くから深く関わってきた町です。町内にはクジラ料理のお店や鯨肉も販売している漁協スーパー、太地町立くじらの博物館やクジラの形をした郵便ポストなど、町内を回るだけでクジラと共にあった町だと実感することができます。

日本鯨類研究所はもともとは東京だけでなく、宮城県石巻市鮎川浜にも実験施設がありましたが、2011年の東日本大震災で実験機材・クジラのDNA・胃の内容物など資料のほぼ全てを失いました。鯨類の実験には実験機材の大きな音や、生体実験の匂いが発生します。東京では鯨類の生態調査が行えず困っていた時に太地町から声がかかりました。太地町は捕鯨だけでなく、クジラの生態について学術研究も行う鯨類に関する学術研究都市にしたいという想いから、国際鯨類施設という研究施設を作り、日本鯨類研究所を誘致しました。

施設には100人が入れるホールも併設されており、将来的にはこの国際鯨類施設で世界中から研究者が集まるようなシンポジウムを行いたいそうです。

国際鯨類施設図書室

国際鯨類施設図書室には2つの側面があります。資料収集・レファレンスを行う研究者向けの図書室という側面と、一般の人への広報を行う図書室という側面です。所蔵の内容としては図書1万点、雑誌4万点、国際会議の発表論文、クジラ・イルカに関する研究論文、写真、動画などです。鯨類に関する資料全般を収集しています。鯨類に関する資料と一括りに言っても、生態に関するもの・文化(捕鯨)・歴史に関するもの・政治的側面からみた国際関係の資料・読み物・絵本・映像・写真集など多岐にわたります。そして、鯨類以外にも水産系の図書・雑誌も幅広く収集されています。なぜ鯨類以外の水産系の資料も収集しているかというと、海洋生態系からみると全て鯨類に関わりがあるからだそうです。鯨類の餌となるもの・餌が競合するペンギンや海獣・生きている環境など、水産系の資料は広く鯨類に関わってきます。直接的なものも間接的なものも広く収集されています。

図書室は2フロアで構成されています。1階が図書や専門雑誌などの開架スペースで、事前予約をおこなえば誰でも利用することができます。雑誌架には30誌以上の水産系の雑誌が並んでいます。

写真提供:日本鯨類研究所

貸出を行わない閲覧のみの図書室ですが、閲覧席は18席あり、ゆっくりと調べ物を行うことができます。開架書架は全て和歌山県産の紀州材を利用した温かみのある書架となっており、図書室に入るだけで木のいい香りが漂ってきます。

写真提供:日本鯨類研究所

2階は研究者専用の閉架スペースです。国際会議での配布資料や論文、新聞の切り抜きなどが配架された開架スペースと、廃刊や電子ジャーナルに移行したものを含む雑誌のバックナンバーが保管された集密書庫となっています。

図書室の窓からは豊かな緑や、併設のホールを一望することができます。

運が良ければ窓の外に鹿などの野生動物を見ることもできるそうですよ。

オススメ図書

図書室担当の久場様、大藪様のオススメ図書のご紹介です。1冊ずつ熱意をもって推薦ポイントを教えてくださいました。

クジラと日本人(大隅 清治 著)

鯨類研究の第一人者として日本鯨類研究所の理事長・顧問を務め、国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会等においても研究者として活躍した大隅清治さんの著作です。クジラの生物学・クジラの資源管理・捕鯨の歴史・捕鯨の文化など、この一冊でクジラの生態・歴史・文化が分かる入門書として最適な1冊だそうです。

クジラ博士のフィールド戦記(加藤 秀弘 著)

大隅清治さんの弟子にあたる加藤秀弘さんの著作。こちらも入門書として楽しく読める1冊とのこと。自叙伝としてクジラと著者の関わり、クジラという生き物とは何か、骨格標本の組み立て、座礁の研究など・・・興味深いお話が沢山。科学者の視点からIWC脱退問題についても詳しく解説されているそうです。

おクジラさま ふたつの正義の物語(佐々木 芽生 著)

太地町というクジラと共にあった町に移転したからこそ図書室として紹介したい1冊だそうです。太地町には、文化として捕鯨を行ってきた町と、鯨類を利用したくない人で対立していた歴史があります。一方の言い分だけでなく、両方の言い分を2つの正義として取り上げて映画化した作品の書籍版です。太地町を舞台に描かれた作品として、是非読んでほしい1冊と言っておられました。

最後に

国際鯨類施設図書室は事前予約と来室時にカウンターで必要事項に記入をおこなえば誰でも利用することができます。開室日は土日、祝日、年末年始を除く平日 10 時から16時まで(12時から13時を除く)。詳細については日本鯨類研究所ホームページの図書室のご利用案内をご確認ください。

最後に図書室担当の久場様、大藪様からメッセージをいただきました。

「ひとえにクジラといっても、生態や歴史、政治、料理など様々なアプローチがあります。研究者でも一般の人でも、鯨類に興味がある方にとって国際鯨類施設図書室が興味を深掘りする懸け橋になれればと思います。鯨類に興味がある方はぜひ一度ご来館ください」

私はクジラと日本人の歴史に想いを馳せ、太地町の雄大な自然に感動しつつ図書室を後にしました。

見学者
林一裕 (株式会社ブレインテック)
見学した専門図書館
国際鯨類施設図書室(指定管理者 一般財団法人日本鯨類研究所)