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お仕事見学

ちいさな図書館、LiBOONが運ぶものとは?ウパっちが突撃取材

掲載:2025年3月4日

第11回 株式会社図書館流通センター

ウパっちはとある企業図書館に住むウーパールーパー。

今、いるのはパシフィコ横浜。5年ぶりの展示ホール開催が実現した図書館総合展にやってきました。

ウパっちを出迎えたのは、株式会社図書館流通センターのブースに展示されていた、移動図書館車 LiBOONです。

このちいさな図書館に、どんな思いがこもっているんだろう。

気になったウパっちは、Jcrossスタッフの秋葉を連れて、詳しく話を聞いてみることにしました。

図書館流通センターってどんな会社?

図書館総合展の株式会社図書館流通センターのブース

株式会社図書館流通センター(通称TRC)は、1979年に創立されて以来、「図書館」と「図書館にかかわる人」と「図書館を利用するすべての人」に対するさまざまなサービスを提供してきた会社だ。

学術情報センターの参照MARCとして採用されている「TRC MARC」や、図書館専用インターネットサービス「TOOLi」など、図書館業界では誰もが一度はその名前を耳にしたことがあるのではないだろうか。

ウパっちは、以前TRCの現場を見学させていただいたことがある。お仕事見学の記事を掲載しているので、TRCについてもっと知りたい!という方はこちらもあわせて読んでみてほしい。

今回ウパっちがお話を伺ったのは、株式会社図書館流通センターの中四国支社長の渡辺さん、営業デスクの宮野さん、久喜市立中央図書館館長の川羽田さん。そして豪華ゲストとして、移動図書館研究の草分け的存在である十文字学園女子大学の石川先生にも同席していただいた。

LiBOON(リブーン)って?

LiBOONとは、図書館流通センターが販売する移動図書館車のことをいう。

軽自動車なので、普通自動車運転免許さえあれば誰でも運転ができるという特徴がある。移動図書館としての必要な機能を備えながらも、小型化により、導入費も維持費も低コスト。オリジナルラッピングで街を走れるので、通りすがりの人にも図書館をアピールすることができる。

図書館総合展では、『おまえうまそうだな』『おとうさんはウルトラマン』といった代表作で知られる絵本作家・宮西達也先生によるモデルと、『りんごかもしれない』『もうぬげない』といった代表作で知られる絵本作家・ヨシタケシンスケ先生によるモデルが展示された。

久喜市立図書館の宮西達也先生モデル

ヨシタケシンスケ先生モデル

展示会場に搬入されるLiBOON

渡辺さんは「移動図書館車の『小型化』というところに個人的に意味がありました」と語る。

「移動図書館が運ぶのは、本だけじゃない。パンやコーヒーを積んで走っている車もあるし、当時はコロナ禍ということもあって、検査キットなどを隅々まで行き渡らせるための助けになるかもしれない、という考えもありました。そのためには、大型自動車の免許のいらない、細く狭い道も通っていける小型の自動車である必要があったんです」

LiBOONは普通運転免許さえあれば運転できる。細く狭い道も進むことができる。小さいからこそ、誰でも、どこまでも。

大型の移動図書館車では難しかった、運転手の確保や重たい扉の開け閉めといった課題をクリアできるLiBOONが活きる未来が見えた。

移動図書館が運ぶものはなにか

そもそも、どうしてTRCが移動図書館車を作ることになったのだろうか。

ウパっちの疑問に、渡辺さんが答えてくれた。

「とくし丸[※1]という移動スーパーを目にしたことがきっかけで、マーキュリー[※2]さんという会社の存在を知り、DMのやりとりを始めました」

「TRCには電子図書館という大きな商材もありますが、図書館利用者から電子疲れのような雰囲気を感じることがありました。電子もいいが、人と人とのサービスもいい。コロナ禍には特に、この『人と人とのサービス』について考えることが多かったんです」

「TRCの持っていない技術がマーキュリーさんにはあり、マーキュリーさんの持っていない販路がTRCにはあった。飛び込みで営業をかけて、そこから二人三脚で頑張ってきました」

「移動図書館が運ぶのは本だけではありません。図書館サービスをのせていきます。貸出とあわせて読み聞かせ会や工作教室などを開催する、というように、組み合わせることで発信できることがあります」

移動図書館とは、図書館が移動するということ。本や貸出サービスだけが移動するのではなく、移動した先に図書館活動をどう展開していくのかが鍵となる。ただ運行することだけが目的になってはいけない、と石川先生は語る。

車をただの移動手段ではなく、社会問題を解決するための新しいツールとして考え、その可能性を探るマーキュリーさんの力があったからこそ、TRCの思い描いた移動図書館車が実現したのかもしれない。

"リアル"を追求したミニカー型LiBOON(右・左)と石川先生の私物である移動図書館のトミカ(中央)

図書館以上に図書館じゃないか

「図書館から離れているけれどもそこにはちゃんと町があって、商業施設もあって、暮らしもある。あるんだけれども、ただ図書館空白地帯である。そこから図書館に行くには遠い。そういうところの話を聞いてみると、やっぱり来てくれるのは嬉しいというお声をいただけます」

図書館のほうから会いに来てくれるって、たしかに嬉しいことだとウパっちは思った。

移動図書館とは、車に積む本を選ぶように、貸出やレファレンスをはじめとするさまざまな図書館サービスを、図書館の中から選んで、運んでいるともいえる。

渡辺さんが深く頷き、言った。

「私が感銘を受けたのが、マーキュリーさんの移動販売車を担当している方の言葉です。『例えばその人にパンを届けるだけなら、箱に入れて届ければいいんだけれど、そうじゃない。たくさん並べられた中から食べたいパンを選べる幸せ、自分がどのパンを求めているのかを考えるという自然な行動を創出してあげることがすごく重要』だと。本も「選べる」というワンステップが重要なのかなと思いました」

それを聞いた石川先生がヒントとして例に挙げられたのが、シェア型書店[※3]。自分の選書した本がちいさな書架に自己表現され、それを共有することでさらなるコミュニケーションへとつながっていくというものだ。これは移動図書館の書架とも通ずるところがあるのではないか、と石川先生は語る。

シェア型書店の本棚に選書をした人の個性があらわれるように、巡回する車にもその司書の個性があらわれるのではないだろうか。選書をとおして会話が生まれ、その会話をとおしてさらなる選書がおこなわれる……こうしたコミュニケーションもまた、図書館活動のひとつといえる。

相槌を打っていた川羽田さんも、頷いた。

「うちのスタッフの司書からも『本のご案内も、普段以上にいろいろやることができて、司書らしい、いい仕事をさせてもらっているなと思う』という声が上がりました。それを聞くと、図書館以上に図書館じゃないかって思うんです」

移動図書館の未来

「移動図書館車の課題というのは、運転手がいない、車を管理する場所がない、ひとつのエリアに停まる時間はどのくらいがいいのかわからない、といった運営上の悩みが多いんです。初歩的なことで躓く人がいないよう、基準やガイドラインを定めておいたほうがいいかなと思います。昔はこうした最低基準のノウハウが共有されていたけれど、移動図書館車の減少とともに失われてしまいました。これから新規参入していこうという図書館にとっても必要な情報だと思うので、改めて発信していくことが大切です」

と、石川先生は語る。

また、現場担当者も、情報がない中では手探りになってしまう。移動図書館を続けていくため、そして発展させていくためには、些細なことでも不安を解消できる環境を作ることが必要なのではないだろうか。

「移動図書館車は減っているけれど、それは致し方なく減っているんですよね。置き場所がない、運転手がいない、維持できない……潜在的なニーズはまだまだあると思います」

図書館は、成長する有機体であると、ランガナータン博士は言った。

移動図書館もまた、これからも時代とともに成長していくだろう。LiBOONはそのための取り組みの中の大きな一歩であると、皆さんの力強い輝きを宿した眼差しから感じ取ることができた。移動図書館車の未来は、決して暗くはない。きっと、ここにいるだけではない、図書館を支えるたくさんの人の努力が、その道を照らしてくれるだろう。

(写真左から)渡辺さん、宮野さん、ウパっちwith秋葉、石川先生、川羽田さん

みなとみらい線に乗りながら、ウパっちは思った。

移動図書館車は、本だけではない、人と人のつながりを運んでいるんだ。

ウパっちもJcrossを通して、いろんな図書館とのつながりをみんなに届けられたらいいな。

本記事の内容は取材時(2024年11月)のものです。
会社情報
株式会社図書館流通センター
株式会社図書館流通センター(TRC)
http://www.trc.co.jp/
  • [※1]
    移動スーパーとくし丸
    近所のスーパーが撤退してしまい、日常の買い物に不自由している人たちのため、軽トラックに生鮮食品などを積みこみ、各地を巡回して販売する移動スーパー。
  • [※2]
    有限会社マーキュリー
    自動車整備工場からスタートし、数々の社会問題をモビリティの力で解決することを信念として事業を進めている会社。「移動スーパーとくし丸」の製作のほか、キッチンカーや移動事務室車など、さまざまな車両を手がけている。
  • [※3]
    シェア型書店
    複数の人が棚を間借りするかたちで運営されている書店。自分の選書した本を、借りた区画の棚にならべて販売することができる。コミュニティ書店とも。