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レポート

アイディアが詰まったおもちゃ箱みたいな久美浜高校図書館

掲載:2017年10月23日

京都府立久美浜高等学校図書館では、国立国会図書館国際子ども資料館の資料協力で『絵本で知る世界の国々-読んで旅する七大陸-』と題した展示が一般公開で開催されました。

普段なかなか学校図書館のテーマ展示を見学することはできないため、この貴重な機会に見学に伺ってきました。

久美浜高校図書館ではこのような一般公開での展示以外にも、普段から工夫を凝らした様々な展示を開催しています。

実際に訪れてみると、そうした展示はもちろんのこと、にぎやかで楽しい掲示やPOPで館内が彩られ、楽しく図書館を利用できるようにというアイディアや工夫がたくさん散りばめられていました。

久美浜高校図書館で司書を務める伊達深雪さんは、同図書館の司書を一人で15年間務めているそうで、今回は伊達さんに図書館を案内していただきながら、こうした図書館を作り上げるアイディアがどのようにして生まれているのかについてお話を伺いました。

図書館内の様子

京都府立久美浜高校は、京都府の北部、日本海に面した京丹後市でも兵庫県にほど近い海沿いの町にあります。京都駅からは電車を乗り継いで約3時間ほどのところに位置し、車で1時間ほどのところには日本三景のひとつ天橋立があります。

学校に到着すると、校舎の壁面には、高校総体への出場決定者の垂れ幕と並んで、今回の『絵本で知る世界の国々-読んで旅する七大陸-』展の垂れ幕も掲げられているのが目に入ってきました。

久美浜高校の外観

図書館へ向かう途中、廊下や階段、踊り場などにも展示や掲示がしてあり、図書館に近い階段には「図書館でできること」が各段に書かれていて、「本を読む」「本を借りる」「CDやDVDを視聴する」といった一般的な図書館サービスから、展示やイベントの案内、中には「ぼーっとする」とも書かれていて、本を読む以外でも図書館に行っていいんだということが伝わります。

「図書館でできること」が書かれている階段

そして図書館の入り口手前の廊下には天井からたくさんのポスター類が吊るされていました。

もともとは館内の天井付近の壁に貼られていたそうですが、両面に印刷されているものなので、壁面だとどちらかしか見られずもったいないということで、天井に吊るすことになったそうです。館内ではなく廊下にあるのは「館内はもう場所がなくて廊下にでてきてしまった」とのことでした。

図書館入り口手前に飾られているポスター

その言葉通り、館内に入っても、天井にポスターが吊り下げられていたり、壁一面に掲示がされていたりと、とてもにぎやかな雰囲気に圧倒されます。

そして、少し足を進めると、床に館内案内図と図書館利用のマナーポスターが貼られています。場所の都合だけでなく、必ず通る床面にあることで少なくとも最初に入ったときには必ず見てもらえるため、ここに貼られているとのことでした。

床に貼られた館内案内図と図書館利用のマナーポスター

さて、『絵本で知る世界の国々-読んで旅する七大陸-』展は、土日を除く2017年7月18日から8月1日までの期間で開催されました。展示はカウンターの正面に設置されており、その場所にある閲覧机を使ってパネルを並べ、43の国と地域の365冊の絵本とそれらの国の紹介等が展示されていました。

「絵本で知る世界の国々-読んで旅する七大陸-」展の様子

また、廊下にはこの展示に先立って行われた『想像翻訳』という企画の優秀作品、24作品が展示されており、来場者が自分の気にいった作品に「いいね」シールを貼ることで投票を行えるようになっていました。

『想像翻訳』とは、外国語で書かれた絵本の中から印象に残った絵本の1ページを、その絵や雰囲気から各々が想像で訳すというもので、1年生を対象とした図書館オリエンテーションの一環として実施されたそうです。

「想像翻訳」の優秀作品の展示

『絵本で知る世界の国々』の展示は、昨年の12月頃には国際子ども図書館から借りて展示することが決定しており、展示に合わせたPOPやチラシなどは開催の2か月くらい前から少しずつ準備してきたとのことです。

久美浜高校はその場所柄、交通の便があまりよくないため、例えばバスに乗り遅れると次のバスまで2時間待たなければならないなど、クラブ活動などをする生徒以外はすぐに帰ってしまうのが日常だそうです。そのため、放課後の時間が限られるので、図書委員の生徒がそろって作業をするということが難しく、普段の展示はほとんど伊達さんが一人で作業をしています。

しかし、今回は、図書館が年に一度、おすすめ本をまとめたブックリストを夏休み前に発行しており、その編集作業で図書委員が集まる日がちょうど展示の準備をするタイミングと重なったため、図書委員にも作業を手伝ってもらうことができたそうです。

『絵本で知る世界の国々-読んで旅する七大陸-』展の様子

久美浜高校図書館では、『絵本で知る世界の国々』のような大掛かりな展示の他にも、規模の大小や期間が長いものから短いものまで、日常的に様々な展示が並行して開催されています。

「その日やろうって決めたらその日のうちに。大体は1時間くらいで。朝、新聞見てて、このネタ使えるってなれば昼休みまでにはその展示コーナーを作っちゃいます」

面白いところでは『今日は何の日』という展示で、その日の説明と関連する本を一緒に日替わりで図書館へ通じる階段の踊り場に展示していて、これは3年ほど前から毎日続けているとのことでした。

『今日は何の日』の展示の様子

「本をただ並べるだけだとなかなか読んでもらえないので、展示を見ることで何かしら新しい発見があったり、考えるきっかけになったり、その本を一冊読んで得られるものだけじゃなくて、プラスアルファがあるといいなと思っています」と伊達さん。

映像化された本を集めたコーナー

「例えば、当校の創立記念誌を紹介している展示があるんですけど、ただ学校の歴史を知ってみようって置いてもあまり読まないと思うんですね。”お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんとか、君たちの授業をしてるあの先生の青春時代があるよ”みたいなことをすると見てくれます」

取材時(2017年7月)に行われていた展示の中だと、アニメや書籍、映画などの作品の舞台となった場所やゆかりのある場所を訪れる『聖地巡礼』に関する展示に人気が集まっていたそうです。

「生徒と話していて、普通にこういう本が読みたいとか、雑談のなかで今流行っているものを聞いてそれが展示にできる材料があるなと思えば展示にするという感じですね。『聖地巡礼』っていうのはそれで作りました」

聖地巡礼の展示

久美浜高校の図書館は生徒の教室がある棟とは別の建物の3階にあり、普段学校生活を送る上での動線上になく、本当に図書館に来ようという生徒以外に何かのついでに立ち寄るという場所にはありません。

多くの展示もそうですが、館外の廊下や階段にまで様々な工夫を凝らしているのは、一人でも多くの生徒に図書館に来てもらえるように、まずは「図書館ってここにあるんだと思ってもらいたくて」とのことでした。

館外に設置された書架

久美浜高校の生徒数は全学年で248名(2017年7月取材時)で京都府内の全日制の府立高校の中では少ない方ですが、一方で、図書館の利用率は極めて高く、生徒による貸出冊数はここ10年程は京都府内の高校でも上位を維持しており、府の平均貸出冊数の倍ほどもあるそうです。

利用率の高さについて伊達さんは、「京丹後市では、市内にある他の6つの公共図書館が積極的に資料の貸出をしてくれるだけでなく、それらの図書館を通じて府内の別の図書館からも借りられるという仕組みがあります。そのおかげで、生徒の中にも必要な本があればリクエストすれば何とかなるというのが浸透しています。そのため、生徒からの要望も多く、そうした要望に応える本を提供してきた結果かもしれません」と話します。

そうした理由以外にも、こうして実際に図書館を訪ねてみると、館内、館外を問わず、利用者(生徒)を惹きつける仕掛けがあちこちにあり、その利用率の高さにも納得がいきます。

それは見た目に印象的なものだけではありません。例えば、書架を見ていると一連のシリーズとなっている本がわかりやすくケースにまとめて並べられています。書架の場所を節約するだけでなく、借りる利用者にとっても便利なさりげない心配りも、そうした仕掛けの一つです。

ケースでまとめられている多巻ものの本

図書館内には今年から飲食が可能なエリアも設けられました。「お昼休みにちょっと本読みながらご飯食べたかったり、勉強してても水分補給くらいしたいかな」という配慮から実現し、今では、休憩時間になるとすぐに埋まってしまうほど、人気があるそうです。

マルチメディアルームの入口に掲示されている飲食可能の文字

「本を読まない子に対しては、どれだけお勧め本といっても、もともと読むという習慣がないので、そうした子でもとりあえず図書館に足を運ぶ、そういう機会を増やしていくことをいつも考えていますね」と、こうした取り組みを続けることについて、その思いを語ってくれました。

研修会などで他校の実践報告を聞いたり、Facebookから他県の図書館の情報などを仕入れている以外にも、本屋さんのイベントなども見て、図書館でもできそうだと思ったものはすぐに取り入れているそうです。

「高校一年生だったら今何が欲しいかな? 2年生だったら何がいるかな? っていうのをいろいろな人の立場でとにかく想像して、これあったらいいんじゃないかなっていうのを全部詰め込み続けたら最終的にこうなったっていう感じでしょうか(笑)」

お話を伺った伊達深雪さん

ひとりでも多くの生徒に興味をもってほしいという思いがこめられた久美浜高校の図書館は、まるでおもちゃ箱のような図書館でした。

取材・文/前田貴代、浜田博子 (株式会社ブレインテック)