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専門図書館見学記

兵庫県立尼崎青少年創造劇場ピッコロシアター資料室

掲載:2021年8月18日
図書館名
兵庫県立尼崎青少年創造劇場ピッコロシアター資料室
住所
〒661-0012 兵庫県尼崎市南塚口町3-17-8
URL
https://piccolo-theater.jp/
OPAC
https://piccolo-library.opac.jp/opac/top

ピッコロシアターって?

1978年に青少年の自由な創造活動を促進し県民文化の高揚を図ることを目的とし、兵庫県のCSR(カルチャー・スポーツ・レクリエーション)事業の一環として開館された兵庫県立尼崎青少年創造劇場(通称:ピッコロシアター)。日本でも数少ない公立劇団を持つ県立劇場です。

ピッコロシアター

通称はイタリア語で"小さい"という意味の「ピッコロ」、英語で"劇場"という意味の「シアター」が組み合わされたものが、公募にて選ばれました。

ピッコロシアターには附属劇団(兵庫県立ピッコロ劇団)、演劇学校、舞台技術学校があり、大・中・小ホール、練習室と充実した施設があります。その中に演劇に関する書籍・資料を豊富に所蔵した資料室を備えているとのことで見学させてもらいました。

入口から資料室に行く途中の廊下にはピッコロ演劇学校・舞台技術学校の卒業公演写真がズラリ

ピッコロシアター資料室

ピッコロシアターに資料室を設ける構想は、地元の若者の要望を反映して劇場建設の基本構想に盛り込まれたものでした。ただし、開館当初は資料が乏しかったそうです。そこで、開館当時の副館長・山根淑子さんが、個人蔵書約100冊を持ち込んで、資料室の開室に漕ぎつけました。山根さんは、大阪の毎日ホールのプロデューサーとして活躍していたところ、その手腕を見込まれ、兵庫県から引き抜かれてピッコロシアターの運営を任されていました。(山根さんは、若い人が演劇を学び、作りやすい空間を常に考えておられたそうです)

今では31,879点の演劇や舞台芸術に関する資料を所蔵しています。

約30,000冊を所蔵する閉架書庫から本の出納が行われています

ピッコロシアターでは「演劇をする人のための資料室」として、国内外の戯曲やアマチュア劇団が作成した出版されていない台本、ピッコロ劇団の歴代代表の著書など、主に7類(芸術美術)や9類(文学)の資料を多く所蔵しています。

閲覧スペースに置いてあるPC端末から蔵書を検索し、閲覧したい資料を請求することで閉架書庫から資料を出してもらえる仕組みです。

閲覧スペースに2台ある蔵書検索端末で読みたい資料を検索し、紙で依頼する運用方法

ピッコロシアター資料室は閲覧スペースと書庫を拡張し2021年2月にリニューアルオープンしました。リニューアル前の閲覧席は書庫内にありましたが、書庫に集密書架を追加することになり閲覧席が手狭になったため、展示室だった場所を新たな閲覧室としてリニューアルしました。

リニューアルされた閲覧スペース(元展示室)

リニューアル時、資料室を利用する演劇部の生徒が手に取りやすいように、所蔵している学校演劇の台本を閉架書庫から閲覧スペースに移動しました。

所蔵している学校演劇の台本は、主に高校演劇研究大会阪神支部大会や県大会、自館主催のピッコロフェスティバルでの上演台本です。高校演劇研究大会阪神支部大会は毎年ピッコロシアターで上演されますが、県大会は毎年会場が違い、ピッコロシアターで開催される場合のみ収集しているそうです。毎年8月に開催されるピッコロフェスティバルでは演劇部門の中学・高校の部をメインに、大学・一般の部は事前に台本提出があった場合のみ収集されています。高校演劇の大会は、生徒が劇場付きの舞台技術スタッフと一緒に機材の操作を行います。学校と舞台スタッフが事前に打ち合わせをする必要があり、打ち合わせの際に学校から台本を提出してもらい、上演終了後にこれらの台本を収集されているとのことでした。

閲覧スペースの一角には自館で上演のあった学校演劇台本が上演年ごとに分けて配架されていました

閲覧室には、膨大な数の台本から目的の台本が探しやすいように工夫されたリストもおいてありました。この「高校演劇・ピッコロフェスティバル台本リスト」は、学校演劇台本について独自のジャンル分けを行い、上演人数や上演時間など、演劇を行う中高生に向けて分かりやすい資料作りをされています。

上演人数、ジャンル、ページ(ページ数=上演時間目安)が明記されていて探しやすい台本リスト

自館で上演された25年分の学校演劇の台本を閲覧スペースに配架することで、今まで以上に生徒に手に取ってもらいやすくなりました。演劇に関わる利用者に、どの演目を上演するか閲覧スペースで台本を見比べながら話し合ってほしいという想いがあるそうです。

閲覧室の中央にある日当たりのいい円形カウンターは広々とした机で、台本を何冊も広げて見比べることができます。晴れの日も雨の日も、その日によって表情を変える外の景色に自然を感じながら演劇台本に手を伸ばしてほしいとのことでした。

演劇愛のある資料室担当者

資料室担当の木屋村様と、広報担当の古川様にお話を伺いました。

ピッコロシアターに所蔵している資料は演劇関連本、特に戯曲[※1]や台本が多く、木屋村様は「演劇関連本は面白いので趣味・娯楽としてもっと身近に広がってほしい。小説を読む感じで戯曲を面白がって読んでほしい」と仰っていました。演劇を広げ、ピッコロシアターを愛着ある場所として感じてもらうための手伝いを資料室として行っていきたいそうです。

広報担当の古川様には開館以来ずっと続けて収集している自慢の資料があるということで、見せていただきました。全国5紙と、地元の神戸新聞を含めた、新聞計6紙のスクラップブックです。全職員が交代で新聞をチェックして演劇に関する全般の記事を保存しており、40年以上毎日続けているピッコロシアター伝統の仕事となっているそうです。一般公開はされていませんが、未来の演劇人に役に立つ資料になる日がくると考え、今後も続けていくとのことでした。

150冊以上ある新聞のスクラップブックから数冊ピックアップして見せていただきました

資料室担当、広報担当のオススメ図書

資料室担当の木屋村様がオススメする図書は『現代演劇101物語』(岩淵達治編)。

チェーホフ『かもめ』、ウィリアムズ『欲望という名の電車』から、サイモン『はだしで散歩』、マメット『オレアナ』まで現代演劇の名作101作をピック・アップし、あらすじを中心に簡潔に解説された1冊。タイトルは聞いたことはあるけどどんな内容なの?そんな疑問も解決できる本です。現代に生きる古典作品や演出家26人も取り上げられ、演劇史がわかる、木屋村様にとってのバイブルと言っておられました。

広報担当の古川様がオススメする図書は『風の演劇:評伝別役実』(内田洋一著)。

ピッコロシアター資料室では歴代のピッコロ劇団代表の著書を収集しているのも特長です。

その中でも日本の不条理演劇を確立した第一人者であり、2003年から2009年3月まで兵庫県立ピッコロ劇団の代表を務めた別役実氏『風の演劇:評伝別役実』をオススメしてもらいました。別役実氏の半生をロングインタービューを交え膨大な取材から描かれた評伝作品で、数多くの別役実氏に関する著書の中でも特にオススメの1冊だそうです。

演劇をする人のための資料室として

専門図書館としては小規模なピッコロシアター資料室ですが、プロから学生までが使う資料室を意識して台本や戯曲のメタデータを利用者が使いやすい形で作成されている、"演劇をする人"に対する愛の詰まった資料室でした。また特に他の図書館にはない学校演劇の台本のコレクションは、特定分野の郷土資料のアーカイブとしても素晴らしい取り組みだと感じました。「新型コロナウイルスの自粛で落ち込んでいる今の間に一般の利用者にも演劇書を読んで英気を養ってほしい」という木屋村様のお話に、今まで読んだことがなかった演劇書に興味を惹かれながら創造劇場ピッコロシアターをあとにしました。

ピッコロシアター全景

見学者
林一裕 (株式会社ブレインテック)
見学した専門図書館
兵庫県立尼崎青少年創造劇場ピッコロシアター資料室
  • [※1] 
    戯曲
    演劇の上演のために執筆された脚本や、上演台本のかたちで執筆された文学作品