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レポート

図書館総合展イベント「図書館LARP BOOK WORLD」レポート

掲載:2023年12月15日

10月28日(土)、東京都立中央図書館にて図書館総合展イベント「図書館LARP BOOK WORLD」が開催されました。

「図書館LARP」とは聞きなれないワードですが、図書館総合展サイトによると「参加者も一緒になってストーリーを創り上げる体験型のゲーム」「ゲームを通じて図書館資料そのものの魅力を発見したり、さらに、情報を整理・統合、発信したりするような活動に従事する」と説明されています[※1]

参加者が登場人物となって物語を体験するエンターテイメントは近年、日本でも盛り上がりを見せており、「リアル脱出ゲーム」や「イマーシブシアター(体験型演劇)」という名を耳にした方もいると思いますが、そのようなコンテンツと図書館とが連携して資料の魅力を引き出す、というのはどのようなイベントなのでしょうか。

同じような期待を持つ人が多かったのか、受付開始日のうちに定員となり、追加募集もまたたく間に埋まったという注目のイベント。その様子を紹介します。

都立中央図書館が所在する有栖川宮記念公園は、自然豊かな日本庭園が広がり、野球場やテニスコートも隣接する憩いのスポットです。当日は、10月にしては暑いぐらいの日和で、ピクニックやスポーツを楽しむ姿もあり、和やかな雰囲気にあふれていました。

集合場所は5階の交流ルーム。普段は図書館の資料を使ってグループで調査研究を行ったり、議論や交流の場として自由に利用できる閲覧室です。

イベントを企画・進行するのは「体験型LARP普及団体CLOSS」[※2]の代表、星屑さんと、デザインも担当されている雛咲望月さん。2011年からLARPに関する活動をおこなっているベテランのお二人です。

ここでLARPとは何か、という疑問に立ち返りますが、お二人に聞いた話によると、架空のキャラクターになりきり、その役割にそって考えたり行動することで、新しい発見や深い知見を得られる体験型コンテンツで、欧米では40年以上の長い歴史があるとのこと。名称はLive Action Role Playing(ライブアクション・ロールプレイング)の頭文字をとったものでラープと読みます。

「ロールプレイング」「ゲーム」で想起されるように、敵と戦う、宝を探すといったゲーム要素が中心となるスタイルもありますが、ロールプレイングを学習や技術の習得に生かしたものもあり、それらを「教育LARP」(Edu-LARP)と呼ぶそうです。

CLOSSでは2020年から図書館を活用した教育LARPを提案していたのですが、コロナ禍などにより、今回が初めての本格的な開催となります。

会場には参加者が次々と集まり、いよいよ10時半にスタートです。

プレイヤーは19人。オブザーバー(見学者)は6人。今回の募集条件は18歳以上ですが、参加者の年齢層は若い方から年配の方まで広く、体験型コンテンツの愛好者だけではなく図書館関係者も多くいらっしゃいました。なかには何と福岡から参加された方も。

そのような彼ら、彼女らが体験する世界は以下となります。

1億年前、巨大な隕石が地球に衝突し、氷河期を迎え、多くの生物が滅び、世界は滅亡の危機を迎えた。そして現在。僅かに生き残った祖先は細々と生き延び、人類は再興を果たした。我々は隕石から渡来した宇宙物質の影響で突然変異し、俗に超能力とも言える「魔法」と呼ばれる力を持つに至った。

1億年前の科学技術には遠く及ばないが、魔法の力によって我々は復興を目指し、現在、魔法王国サクラードが大国として世界を牽引していることは、皆も知っての通りだ。この度、サクラードに未曾有の危機が迫っている。君たち「サクラード魔法学校古書研究隊『ビブリオ・スターズ』」は時空転移魔法によって、1億年前に存在した古代図書館に行き、当時の書物を調べてきてもらいたい。 そこに、迫りくる危機を防ぐ手段が書かれているはずだ。皆で総力を挙げ、サクラードを救うのだ。

古代図書館に滞在できる時間は限られている。制限時間までに、各々の課題について調べ上げよ!

要約すると、プレイヤー達は1億年後の人類で、古代に関する問題を解決するため、タイムワープで古代の図書館(都立中央図書館)に調査にきた研究隊という設定です。3~4人組でグループを作り、それぞれ与えられた課題に取り組むことになるのですが、まずは自分が担当するキャラクターを作成します。

架空のキャラクターを作ると聞くと難しそうに思えますが、「キャラクター名」「得意なこと・苦手なこと」「避けたいこと」を書くだけで、会話のきっかけや、役割分担をしやすくするための手助けとなります。

その後、自己紹介タイムとなりますが、キャラクターという話題があるためか、各テーブルともすぐに打ちとけて、賑やかな時間となりました。

午前中は、LARPの基本ルールや、調査するために知っておくこと、図書館内を散策してのオリエンテーションと説明が続きますが、研究隊の“隊長"である星屑さんの軽妙なトークで飽きる間もなく、あっという間にお昼休みの時間となりました。

後で聞いた話ですが、初心者が多く参加されることを想定し、特にLARPの世界に入るための導入は時間をかけて丁寧におこなったとのことで、この導入をLARPではブリーフィングと呼ぶそうです。

昼休憩が終わり、交流ルームに再度集合。各テーブルで調査方針の打ち合わせを行います。

研究隊Aの任務は「謎の建築物がなんのために立てられたのか調査する」というタイトル。大地震により謎の赤い塔が出土し、その建てられた経緯や目的を調査するミッションとなっています。

手がかりは、塔の外観を記したレポートのみ。しかもキャラクターには1億年前となる現代の知識はほとんどありません。そのためプレイヤーである自分自身は知っていても、今回調査するキャラクターは知らない設定であることを踏まえて調査する必要があります。各課題には難易度が振られていたのですが、このようなプレイヤーとキャラクターの知識のギャップも「知識ギャップ難易度」という指標で示されていましたのが面白いと感じました。

ついに調査を始める時間となり、プレイヤーは全員で手を合わせ、時を駆ける秘術である最先(いやさき)の言葉「ローリダ・クース・セミルダ・ケライ」を唱えて、古代の図書館にタイムワープします。

調査の制限時間はたった1時間。まず、訪れたい場所は1階の総合案内・相談カウンターで、担当の司書に相談することで、有用な情報を得ることができます。

目的の資料がありそうな場所が分かったら、資料の捜索、収集です。調査に使えそうな資料を見つけ出すのも時間がかかりますが、分担して探すか、数人でまとまって行動するか、それもグループによる作戦となります。

調べるためのキーワードが集まったら、検索パソコンも有力な調査手段です。キャラクターの世界から見るとかなりのハイテクノロジーですが、各自、訓練された調査員であるため、使うことが許されています。

それにしても皆さん、まるで現代の人が調べ学習をしているようにしか見えず、優秀な調査員であることが分かりますね。

4階のグループ閲覧室は貸し切りとなっており、他のメンバーとの連絡や相談、資料の確認を行うことができます。この段階になると皆さんかなりの量の資料を集めており、その中から調査に使える箇所を選別していました。

調査が終わると、交流ルームに戻り、20分で発表内容をまとめる時間となりますが、ここでも熱が入った話し合いが行われ、文章やイラストという形で報告書に整理されていきます。

そして、最終(いやはて)の言葉「イラーケ・ダルミレ・スーク・ダリーロ」を全員で唱え、1億年後に戻り、調査発表の時間となります。

なお、見学者の方々は「調査結果を聞くお偉い方々」という設定で、黒いローブを着て扮装し、報告会に参加します。

まずは研究隊Aから、謎の鉄塔についての報告が行われます。

私たちにとってこれが何かは明白ですが、前提知識がない状態をロールプレイするので、自然にこと細かな説明になります。特に塔の目的である「電波」は存在しない技術で、対比のために「サクラード王国の人々はテレパシーで話せる」ということが判明します。

図書館LARPで特に面白いと感じたことが2点あるのですが、それがこの「キャラクターの行動や発言が発展的に尊重される」というルールで、決まっていない事柄については、互いに考えたことを認め合い、世界を形作っていくことができます。

前の発言で言うと「テレパシーで話す」ことは、この時点から世界の常識になったのです。

次に「正解を探すのが目的ではない」という指標で、これはあくまでフィクションの世界なので、誤った推論や結果もこの物語上の現実であり、キャラクターの発言として受け入れられます。

この報告中も、新しい事実があらわれるたびに「確かにそうだった!」「それは新しい発見だ!」という言葉が飛び交い、賞賛や感嘆の言葉であふれていました。

通常の調べ学習では結果の正しさについても重点が置かれるため、この指標は図書館ともよく確認しあった上で決めたとのことですが、心理的安全面を保証することで、よりポジティブに挑戦してもらいたいという星屑さんの考えや、皆で作った結果が物語になるというLARPの理念がよくあらわれていると思いました。

この後も、「赤い塔は人をコントロールする装置で、テレパシーはその副産物である」という異説が唱えられたり、次のBグループでは、1億年後の世界の未知の病原菌はドラゴンのタマゴを経由して感染している、という事実が披露されました。

これらの自由な発想は、後の隊にも影響をあたえたようで、ほうき星、絵画の技法、佐渡島の風土について学術的な説明が行われつつも、新海誠監督の映画「君の名は」が登場したり、「サクラードの人々は棒人間のような絵しか描けない」「大量に生息する飛行にも使われるトリは、過去、佐渡島でトキという名前で保護されていた」というエピソードが語られました。

さらに、「隊員の一人に裏切者の疑いがあり、秘密裡に調査していた」という外伝シナリオまで登場し、笑いがたえない発表となりました。

やっていることは調べ学習の発表なのですが、同時に、「参加者も一緒になってストーリーも創り上げる」という主題も体現しており、LARPの楽しさに触れることができました。

これらの課題は、所蔵資料の特性(得意な分野や、資料の多寡)が関わってくるため、都立中央図書館側からアイディアが提供されたということですので、別の図書館で開催されると、また新しい課題による資料との出会いがあるのでしょう。

CLOSSで図書館LARPを発案したきっかけは、望月さんが大学で法律の勉強をしていた時、ネットで検索できず、コピーもできない判例を図書館で調べ、書き写していた経験からで、資料から情報を得て時間内にまとめることは大切な技術ではないか、と実感したからだそうです。

終了後の参加者の振り返りでも、「インターネットが使えないのは厳しかったが、知らない扉を開けることができた。」「どのように報告をまとめるか考えるのが醍醐味だった。」「図書館を利用したことがないが新しい発見ができた。」といった意見が多数あり、図書館資料を活用する楽しさを確認できたLARPだったのではないでしょうか。

終了は17時という長丁場でしたが、あっという間の時間で、皆さんの笑顔が印象的なイベントでした。

図書館LARPは他の図書館でも行えるよう、フォーマットを整えて発表する予定もあるとのことで、今後その発展が期待されます。

次は私もぜひ調査員の一員として、未知の探索に出かけたいと思います。

最後になりますが、取材、撮影に協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。

運営に尽力なさっていた横浜国立大学の石田喜美さんが、TogetterにBOOK WORLDの感想をまとめていますので、こちらもぜひご覧ください。

文/村上 智 (株式会社ブレインテック)