なかの人たち
第3回 金田陽治 様成城大学図書館
東京世田谷の地に、幼稚園から大学までを一つのキャンパスの中に擁する成城学園。大学は文系の総合大学として、昨年開学60周年を迎えました。今回はその成城大学の図書館に勤める金田陽治さんにお話をうかがいます。
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- 金田 陽治 様
- 成城大学図書館
- 〒157-8511 東京都世田谷区成城 6-1-20
TEL:03-3523-0811
FAX:03-3523-0841 -
- Webサイト
- http://www.seijo-lib.jp/
- 掲載している情報は2011年8月現在のものです。
偶然飛び込んだ図書館という世界
最初に、図書館で働くことになったきっかけを教えてください。
金田陽治さん(以下、敬称略)それが・・・まったくの偶然です。
大学は英文科でしたが、大学を出た後1年半ほどペルーへの語学留学(スペイン語)をしていました。その後英会話の講師を経て、本学で大学職員として働くこととなりました。そして、配属された部署が図書館だったわけです。
それまでは、図書館や図書館司書というものに特別な興味をもっていたわけではありませんでしたから、最初はもちろん全く何もわからず、いろいろと教えていただきながらやってきました。図書館司書の資格も、勤務し始めてから通信課程で取得しました。
なるほど、このコーナーの第1回に登場された稲場さんや第2回の須川さんとは対照的ですね。
金田はい、だからこのインタビューのお話をもらった時は、僕でいいんだろうか?と心配しました。
きっかけや立場は人それぞれですが、みな同じ図書館の「なかの人」なのですから。でも、予備知識なしに入った図書館という世界で、最初は驚くようなことも多かったのではないですか?
金田それは、いろいろありました。
今でもよく覚えているのは、勤務し始めてから図書館学を学ぶ中で、図書館の仕事は「利用者主体」だというのを知ったことがとても印象的でした。驚いたというのとはちょっと違いますが。
それまで、自分が学生時代に利用していた公共図書館や大学図書館では、そういう考え方をうかがい知ることは、正直、あまりなかったのですが(笑)。それを知ったときは、とてもいい考え方だなあ、と思いましたし、自分もそういう考え方で仕事をしていきたいと思いました。
たしかに、とても大事なことですね。
金田あとは、組織を超えて図書館どうしのつながりがとても強いことに驚きました。それに、業務の多くがこの職場独自のものではなく、標準化されているとも感じました。業務を知っていくうちに、ILL[※1]など、業務上で互いに関わりあいながら仕事をすることが多いので、そうしたつながりが強くなるんだなあ、ということが分かったのですが、こういうのは、企業などではほとんどないことですから、珍しいと感じましたね。
なるほど。同じ館種の図書館どうしは、企業でいえば競合、ライバルですからね。図書館の世界では、企業図書室が多く参加している専門図書館協議会[※2]のような組織もあります。これは確かに他業種から見ると珍しいことかもしれませんね。
自分の仕事が「専門職だ」と言い切れるように努力し続けたい
働いてみて、図書館(大学図書館)という世界はどうですか?
金田成城大学の図書館には、総務課、整理課、運用課という3つの課があります。整理課は目録業務など、運用課はカウンター業務などを行いますが、自分は整理課で洋書の目録を担当しています。この職場では数年単位での計画的な部署移動はほとんどなく、もう何年も同じ担当をしていますが、目録は自分にとってとても興味深い業務だと感じています。
具体的には、どんなところでそう感じられるのでしょうか?
金田目録には確固たるルールがあり、些細なことに思えるものでも、そのルールに基づいて決まっているので、ちゃんと意味があります。具体例をあげると、区切り記号や、大文字使用法、単語の省略形などの基本的な事項から、Noteの書き方、シリーズ名の取り方など・・・。それを、先輩に教えていただいたり、自分で調べたりして少しずつ学んでいくことは、とても興味深い体験でした。今でも、ちょっとでも疑問に思ったことはその都度マニュアルにあたるのですが、「あ、こういうことか」という発見があることも多く、それが楽しみでもあります。
そのこととは別に、図書館が紙の資料以外のものも扱うようになってきて、それに応じて目録の仕事も少しずつ変化しています。資料も目録も、生きている、動いているということを実感しますし、興味が尽きないですね。
なるほど。静的な印象のある目録業務ですが、そういう側面があるのですね。こうしてうかがっていると、金田さんが目録の仕事に、とてもやりがいを感じていらっしゃることが分かります。
金田はい。とても面白い仕事だと思っています。
図書館の仕事の中で、これは大変だ、と思うことはありますか?
金田今の職場では「情報を司る仕事をするのだから、どんどん外に出て色々なものを吸収してこい」と応援してくれる雰囲気があります。常に自分で調べ、研鑚していくことが当たり前という感じです。大変ですが、それも含めてやりがいがあります。
愚痴が出ない。良い職場環境で良い経験を積んでいらっしゃるのがうかがえます。
金田でも、まだ自分が「専門職だ」と言い切れるところまでは行っていないと思っています。もちろん、そうなりたくて努力しているわけですが。専門職というのであれば、その業界で起こっていることに常にアンテナを立ててキャッチアップしていくことが必要で、資格があるから専門職だ、じゃないと思っています。
自分に厳しいですね。
金田そうですか?別に自分は「この業界をリードしていこう」なんて思っているわけじゃないんです。そういう、リードしていくような優秀な人たちの下で、しっかりこの業界の動きに付いて行こう、というような感じでやっていきたいと思っています。
外と言えば、図書館の外、学内の別の部署との交流などはあるのですか?
金田日常的にはそれほどないのですが、今ちょうど学食改善プロジェクトのメンバーになっていて、そこには学内のいろいろな部署の職員がいます。もともと学食は学生課の管轄ですが、プロジェクトでは、集まったメンバーが、それぞれの立場からああしようこうしようと意見を出し合っています。
面白そうですね。学生にとって学食の良し悪しはとても重要ですから。もしかして、同じように図書館改善プロジェクトとかあったりするんですか?
金田今のところそういうのは無いですが、やってみたら面白いかもしれないですね(笑)。
偶然飛び込んだ世界だけど、自分に合っていると思っています。
職場である成城大学図書館について少しご紹介いただけますか?
金田図書館は、大学の正門を入ってすぐの場所にありますが、現在の建物が完成したのは平成元年です。地上4階、地下3階で、70万冊近い図書と、約1万タイトルの雑誌、8万点以上のAV資料などを所蔵しています。
優れた図書館建築として、日本図書館協会の建築賞を受賞[※3]したこともあるとうかがっています。エントランスの開放的な雰囲気や、独立したレファレンスカウンターの配置などが印象的ですね。吹き抜け部分に配されたアート作品や、内装に設えられた古い印刷家の商標なども図書館の雰囲気に良く合っていると感じました。
金田蔵書の特徴としては、AV資料の充実という点が挙げられます。文芸学部に芸術学科があることとも関連があるのですが、前述のとおり8万点を越えるAV資料(ビデオ、DVD、CD、マイクロフィルム等)を所蔵しています。
8万点以上というのはすごい数ですね。AV資料は、媒体ごとに再生機器や視聴ブースが必要ですから管理も大変そうですが。
金田そうですね。地下2階が主にAV資料のフロアになっていて、専用のカウンターや、たくさんの視聴ブースがあります。また、館内に本格的な映写設備をもったAVホールがあるのも珍しいかもしれません。
拝見しましたが、本当に素敵なホールでした。
金田このほか、特別コレクションとしてドイツの哲学者で教育学者パウル・ナトルプの旧蔵書である「ナトルプ文庫」があります。また、現在は同じキャンパス内の民俗学研究所に保管されていますが、民俗学者の柳田國男氏の遺言により寄贈された「柳田文庫」なども知られています。
最後になりますが、今後どんな仕事がしてみたいと考えていらっしゃいますか?
金田偶然飛び込んだ世界ですが、入って見るととても奥の深い世界で、自分に合っている仕事だと思っています。この部署(整理課)の中でも、まだまだやることがあります。図書館にはまだ目録の取れていない資料もあり、それにも取り組みたい。でもいずれは、図書館利用者に直接かかわる部署での仕事もしてみたいと思っています。
もともと英会話の講師をしてらっしゃったわけですから、人とコミュニケーションをとる仕事はお好きなのですよね?
金田はい、好きですね。コミュニケーション力もそうですが、前職も今の仕事も、教育への関わりという点で自分の中でつながっています。
教育に関わる志と目録の専門知識、そしてコミュニケーション力というのは、いずれも大学図書館員にとってとても大事なものですね。それら全てを活かして、今後さらに充実した仕事に取り組んでいかれる金田さんをJcrossも応援したいと思います。
本日はありがとうございました。
なかの人たちのとある一日
8:30 | 出勤、メールの確認・返信 |
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8:45 | 同僚が作成した目録データのチェック |
9:00 | |
10:00 | |
11:30 | 洋書整理業務 |
12:30 | 昼休み |
13:30 | 引き続き洋書整理業務 |
14:00 | |
15:30 | 学内設置の委員会に出席 |
16:50 | 帰宅 |
- [※1]
- ILL
- Inter Library Loan 図書館間相互貸借
- [※2]
- 専門図書館協議会
- http://www.jsla.or.jp/
- [※3]
- 1991年 日本図書館協会 建築賞優秀賞受賞