お仕事見学
こだわりがいっぱい!移動図書館車の林田製作所にウパっちが潜入!
第5回 株式会社林田製作所 様
ウパっちはとある企業図書館に住むウーパールーパー。いつものように書架でのんびりしていると、図書室のおじさんが開いたまま置いて行った『図書館雑誌』が目に入りました。
開かれていたページには「図書館車のパイオニア」という文字が。
"かっこいいなぁ~"
車の両脇が翼みたいに開いて、ウパっちの大好きな書架があります。
うわぁかっこいい!乗ってみたいな!好奇心でいっぱいになったウパっちは、書かれていた住所を頼りに移動図書館車の製作所に行ってみることにしました。
"ここで作られているんだ~"
ウパっちがたどり着いたのは、さいたま新都心駅から少しだけ離れた場所にある株式会社林田製作所。
"こんにちは"
到着すると1匹のにゃんこがお出迎え。
にゃんこにご挨拶をしていると、工場長の塩澤さんが現れて声をかけてくれた。
「移動図書館車が見てみたいのならこっちにあるよ。」
さっそく工夫にあふれた移動図書館を見せてもらった。
塗装前の真っ白なバン "どんなデザインになるのかな・・・?"
塩澤さんについて行くと、敷地内に数台の車が停められていて、その中に、まだイラストの描かれていない真っ白なバンが1台あった。
「この図書館車は2番目に小さいタイプで、これでだいたい1200冊くらい入るんだよ。」
塩澤さんが近づいて車両の脇にある扉を上に持ち上げると、本棚が現れた。
"少し斜めになっていて居心地がいいなぁ~"
「この棚は10度から15度の勾配が付いていて、走行中でも本が棚から落ちないようになっているんだ。それから本をたくさん積んでもバランスが崩れないよう左右対称に作っているんだよ。」
書架は左右と内部にあり、内部は可動式で後ろ向きに固定できる
車体横の扉を開けると張りだす棚に、子どもがぶつかっても怪我をしないよう、ゴムカバーを標準で取り付けるなど、安全面への配慮がうかがえる。
角にはぶつかっても怪我をしないようにゴムカバーが付いている "ぶつかっても痛くな~い"
雨の日にも移動図書館車は運行するので、両脇の書架扉を開けた際、上部の隙間から書架に雨が落ちないよう雨除けのカバーも付いている。
カバーが無いと開いた扉の隙間から雨が落ちて本が濡れてしまうので、本を守るために取り付けられた
ほかにも、棚の扉が閉まっていないままエンジンをかけると警告音とランプが点灯してドライバーに知らせたり、走行時の安全対策も施されている。
運転手になったつもりのウパっち "プップ~♪移動図書館車の到着で~す"
工場のなかで実際の作業を見ながら細部へのこだわりを聞いた。
工場内には作業中の移動図書館車が3台あった。
作業工程ごとに場所が分かれているので、同時進行が可能。職人さんは15名ほどいて、工程ごとに職人さんが分担して1台を作り上げる。
座席はあらかじめ取り外した車体を、図書館車を運用する地元のディーラーに発注している。
解体された車体 ここから製作作業が始まる
「車体をばらして両脇に棚を取り付けたり、屋根に光を入れるための天窓を作ったりするんだよ。」
「そのほか入口のドアを高くしたり、乗り降りのステップが低くなるように変えたりしているんだ。ドアが低いと圧迫感や違和感があるからね。」
再度組立られ内部を製作中の車体に潜入 まだ空っぽな状態
乗り降りのステップは高いと乗りづらいので、必ず1段を20㎝以下にしている。
移動図書館車を利用する方たちのことを想像して、車いすをご利用の方や、お年寄りや子どもたちも安全に利用できるよう配慮されている。
移動図書館車を作り始めたきっかけを聞いた。
昭和35年創業以来、自動車特殊車体製作を行っている林田製作所。
当初、移動図書館車作りはしておらず、官公庁向けに、各種救助車や福祉バス、キッチンカー、馬匹輸送車などの製作を主にしていた。
「いちばん初めはディーラーから図書館車を作れないかって話を持ちかけられたのがきっかけだね。それで作った第1号が昭和46年、東京日野図書館のひまわり号。」
「当初は年に10台くらいだったけど、数年で20台を超えてきて、多い時には40台前後作るようになったね。でも、この時は作業が追い付かず、時間外対応となり大変だったよ(苦笑)。」
「台数の予測はしづらいけど、最近では年間20台くらいの製作を目安としているよ。今では移動図書館車作りが事業の約8割を占めているね。」
広告媒体は2つだけ。
ひとつは昭和57年より自社で発行している広報誌の『図書館車の窓』で、 こちらは全国の公共図書館などに発送している。もうひとつは昭和51年より広告を出している『図書館雑誌』だ。
『図書館車の窓』99号(2014.11) 今までに製作した移動図書館車を順次紹介している
「『図書館車の窓』では製作した車体の紹介のほか、図書館や移動図書館車にまつわるコラムを載せているよ。これを見て見積もり依頼や問い合わせなどを受けることもあるね。だけどほとんどは口コミで広がったようだね。」
受注や納品時の話を教えてもらった。
事務室に戻りお話しをうかがう
「打合せの段階で、その図書館をどういう用途で使用するのかを聞けば、どういう車両にしたらよいかは長年の経験で大体分かるよ。福祉施設を回るようであれば、車いすの乗り降りがしやすいように後部扉にリフトを付けるなどの提案をしたりね。」
「リフトは車いすだけでなく、ブックトラックなどの出し入れをする時にも使用できるんだよ。図書館によってはブックトラックごと施設に貸出をすることもあるようで、そういう場合はあると便利だね。」
移動図書館車は滞在時間が限られているので、車体から荷物の出し入れをしやすくしたり、日除けテントの巻き取りを自動化するなど、なるべく早く準備や片付けができるよう改良されてきた。
さまざまな改良や工夫が見受けられるが、ほとんどはお客さまからの要望を受けて取り入れてきたもの。お客さまの声を大事にしているからこそ、使う人目線で車体が改良されてきたようだ。
「できることはすぐに実現させてきたよ。でもさすがに物理的にできない注文はね・・・(苦笑)。期待させてしまってはいけないから、すぐにできないと回答しているよ。」
「個人や書店からの問い合わせが入ることもあるけど、移動図書館車という車両区分から外れてしまうから、今のところお断りしているよ。」
「作業中、打合せでは無かったものでも、作っていてこうした方がいいということがあれば、手心を加えることもあるね。」
苦笑いをしつつも、とても満足そうに語る塩澤さん
契約を交わし、打合せで仕様が決まったら図面作成に入る。
再度打合せをするまでが1カ月半から2カ月。
その間に要望にかなった車体をディーラーに発注しておく。 契約から図書館に納車されるまではおよそ6カ月を見込んでいる。
「1台1台すべて違うから作り置きができないんだよ。」
「作業で一番難しいのは書架の作成だね。木製の書架は別注しているけど、スチールの書架は全部うちで作っているよ。やはり図書館によって、棚の高さなども全部違うから難しいね。」
車体が完成してから図書館に届くまでは約1週間。その間、図書館のある地元のディーラーで本を積んだ状態で車検を行い、安全確認をする。
地元のディーラーで車体を手配するのは、納車後のメンテナンスや数年先の車検を考えてのこと。
「修理などについては、地元のディーラーに任せているよ。ディーラーから修理の相談は受けるけど、作業自体はやってもらうことがほとんどだね。たまにどうしても直せないということがあれば、現地に出向いて直すこともあるけどほとんどないね。」
「納車の際は全国どこでも地元のディーラーとともに立ち会い、車体の説明などを必ず行っているよ。」
1台の移動図書館車の寿命は使われ方にもよるが、おおよそ15年、走行距離にして5万キロから多くても8万キロくらい。役目を終えた移動図書館車を引き取るサービスもしている。
昭和46年に移動図書館車を作り始めてからこれまでに1000台以上作り続けている林田製作所。
工場長の塩澤さんが打ち合わせをするのは図書館の方だが、その視線の先は図書館の方だけではなく、移動図書館車を待っている利用者の安心と安全。
これからも1台1台ニーズに応じた移動図書館車を作るたびに、利用者が快適に利用できるよう更なる進化が期待できそうだ。
お出迎えをしてくれたにゃんことお別れをしていると、事務所の方がウパっちを駅まで送り届けてくれた。
ウパっちは車に揺られながら考えた。
移動図書館車って、両脇に翼みたいなものがあってかっこいいだけじゃなく、実はとってもやさしくて、この優しさは塩澤さんたち職人さんのやさしさの表れなんだなと。
会社情報
- 株式会社 林田製作所
- 住所:埼玉県さいたま市見沼区上山口新田56-1
TEL:048-683-2250